革のなめしとは?この3種類を知れば、革財布の質を専門家のように見極められます

※この記事は、姫路市の革製造タンナーと台東区の老舗革工房の協力のもと作成しています。

革製品を選ぶ際、私たちはしばしばその見た目のデザインや機能に目を奪われます。

しかし実は、革製品の魅力や寿命を大きく左右するのは、目に見えない「鞣し」のプロセスです。

この工程は、あなたの革が時間と共にどのように変化し、どれだけ長く愛用できるかに影響します。

あなたが選ぶ製品の革がどのように鞣されているかを知ることは、家を借りる前に内見をすることと同じくらい重要なのです。

そこでこの記事では、世界の革の9割以上に使われる3つの主要な鞣しを紐解き、それぞれの加工が革製品の質に与える影響を具体的に明らかにします。

この知識を身につければ、専門家のように革製品の質を見極め、長く愛用できるアイテムを選べるようになります。

次に手にする革製品はきっと、単なる持ち物ではなく、5年、10年と生活を共にできるパートナーになるでしょう。

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この記事のまとめ

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鞣し(なめし)とは、動物の生の「皮」を素材の「革」に変えること

鞣し(なめし)とは、動物の生の「皮」を、素材として利用できる「革」に変えることをいいます。

あなたが持っている靴や鞄の革の多くは、食用の動物の皮を鞣すことで作られています。

副産物として生まれる皮を再利用して革製品を作ることで、頂いた命を最後まで無駄にしないようにしているのです。

しかし、そもそもなぜ鞣しという工程が必要なのでしょうか。

動物の生の皮は、そのままでは使うことはできません。

手を加えずに放っておくと、腐ってしまったり、カチカチに硬くなったりしまうからです。

そこで、鞣しの出番です。

この工程では、例えば、お茶にも含まれるタンニンなどの特定の成分を皮に染み込ませます。

これらの成分は「皮」の繊維と化学反応し、腐ったり硬くなったりしにくい、丈夫な「革」に変化させます。

漢字の「鞣」は「革」と「柔」からできています。

これは、皮を硬くならないように、つまり、「皮を柔らかな革にする」というのが「鞣し」の特徴から来ているのです。

鞣しに使う成分によって革の性質は180度変わる

皮を革に変える鞣しには、様々な成分が使われます。

その選択が、革の質感や耐久性、さらには色合いにまで大きく影響します。

例えば、植物由来の成分タンニンは、2,500年以上前から鞣しに使われていたとされています。

この成分を用いた鞣しは、革を素朴でナチュラルな質感に仕上げます。

そして何より経年変化を楽しめるため、ビンテージ好きの間では特に人気があります。

一方で、現代において最も広く使われる「クロム」は、革を、より丈夫で機能性に富んだものにします。

水に強く、汚れにくいため、日常使いのバッグや革靴に多く採用されています。

その他にも、一円玉の素材でもある「アルミニウム」や、レアメタルの一種である「ジルコニウム」、ホルマリン漬けで知られる「ホルムアルデヒド」などが鞣しに使われることもあります。

これらの成分も、それぞれが革に独特の質感や特性をもたらします。

だからこそ、革製品を選ぶ際には、その素材がどのように鞣されたかを知ることが、製品の質を見極める上で非常に重要なのです。

実用的には「クロム」と「タンニン」の2つを理解しておけば十分

革製品を選ぶ際、特に注目すべきなのは「クロム」と「タンニン」という2つの成分です。

この2つは、革製品において最も一般的に使われている鞣しの成分であり、世の中の革の9割以上がこれらの成分で鞣されています。

つまり、クロムとタンニンによる鞣しの特徴を理解することは、革製品選びにおいて最も重要なことの1つです。

これら成分の特徴を正しく理解すれば、革製品選びで失敗するリスクを大きく減らすことができます。

タンニン鞣しは、植物繊維のような自然な味わいのある革をつくる鞣し方

タンニン鞣しとは、動物の生の「皮」にタンニンを浸透させることで、素材として利用できる「革」に変えることを言います。

タンニンは植物から抽出される天然成分で、私たちが普段口にするコーヒーやお茶、ワイン等に含まれる渋みの成分としても知られています。

革の鞣しには、栗やミモザ、オークなどの樹木から抽出されるタンニンがよく用いられます。

この成分で鞣された革は、綿や麻などの植物繊維でできた服のように、自然で温かみのある質感を持ちます。

水をスッと吸い、揉み込むとシワがつく。

そして何より、使うほどに風合いを増して自然な味わいが出てくる。

そのエイジング(経年変化)は、タンニンで鞣されているブライドルレザーやコードバン、プエブロレザーなどの有名レザーにも共通して見られる特徴です。

タンニン鞣しの革は、ナチュラルな見た目と経年変化を楽しむことができるため、ビンテージスタイルやクラシックな雰囲気を好む人々に愛されています。

自然な風合いを求め、革本来の美しさを味わいたいなら、タンニン鞣しの革は最適です。

使うほどに愛着が増し、個性が際立つ革製品をお探しの方は、革の鞣しにタンニンを使用しているかを確認してみてください。

クロム鞣しは、合成繊維のような高い強度を持つ革をつくる鞣し方

クロム鞣しとは、動物の生の「皮」にクロムを浸透させることで、素材として利用できる「革」に変えることを言います。

数千年の歴史があるタンニン鞣しに対して、近代になって発明されたクロム鞣しは、革の世界においてまさに革命的な存在です。

この成分を皮に浸透させることで、短時間で内側の繊維と非常に強く結びつき、強靭で耐久性に優れた革へと変化するのです。

実は、クロムは私たちの日常生活にも深く根ざしており、ヒジキやあさり、豚ロースなど食材にも含まれている必須ミネラルの一つです。

安全に配慮されたクロム鞣しでは、人体に無害な三価クロムが使用されます。

例えば、有名レザーのボックスカーフやシュランケンカーフ、ワープロラックスも、この方法で鞣されています。

クロム鞣しの革の特徴を理解するには、ナイロンやポリエステルなどの合成繊維を思い浮かべると良いです。

合成繊維は水を吸い込まず、強靭で、しわになりにくい特性を持っています。

アウトドア製品に合成繊維がよく使用されるのは、この機能性が大きな理由です。

クロム鞣しの革も同様に、撥水性があり、しわができにくく、何よりも高い耐久性を持っています。

その弾力性や耐久性によって、使い込んでも変化が少ないため、新品の状態を長く楽しむことができます。

また、安全性が必要な工業用途では、クロム鞣しの革がしばしば選ばれます。

その高い強度と耐久性で、厳しい条件下での使用にも耐えうるからです。

タンニン鞣しの革が持つ自然で温かみのある素材感とは対照的に、高い機能性と耐久性を持つ革製品をお探しの方は、革の鞣しにクロムを使用しているかを確認してみてください。

コンビ鞣しは、2つの成分を使って中間的な性質をもつ革をつくる鞣し方

コンビ鞣し(コンビネーション鞣し、または混合鞣し)とは、その名の通り、異なる2つの成分を組み合わせた鞣し方のことです。

この方法は、革の鞣しにおける革新的なアプローチです。

多くの場合はクロムで鞣した後、再度タンニンで鞣します。

こうすることで、クロム鞣しとタンニン鞣しの特徴をそれぞれ取り入れた革が生まれます。

例えば、有名レザーの1つに「クロムエクセルレザー」があります。

コンバースのプレミアムモデルの素材としても使われた革は、コンビ鞣しの革の代表例。

過酷な環境にも適応できるワーク系の高級革靴などに、よく採用されます。

その理由の1つは、クロム鞣しによる高い耐久性とタンニン鞣しによる自然な経年変化という、2つの特性を合わせ持っているからです。

コンビ鞣しの革の特徴を深く理解するには、植物繊維と合成繊維を混紡した生地を思い浮かべると良いです。

例えば、綿とナイロンが混紡された服は、綿由来の吸湿性や自然な感触と、ナイロン由来のしわになりにくさや高い強度を兼ね備えています。

それと似たイメージで、コンビ鞣しの革も、タンニン鞣しによる自然な風合いとクロム鞣しによる強度を併せ持っているのです。

耐久性や機能性をベースに、自然な風合いや経年変化も楽しみたい方にとって、コンビ鞣しの革製品は最適な選択肢です。

どの鞣し方でつくられた革製品がおすすめか

ここでは、クロム鞣しとタンニン鞣しの革の「耐久性」「経年変化」「色合い」の違いを詳しく比較します。

しかし、どのような革も、特殊な加工をすることで性質は大きく変化してしまいます。

そのため、このときの比較は、鞣し成分以外の加工条件を同じにしたときの一般的な傾向になります。

耐久性の違い

耐久性を一番に重視するなら、クロムで鞣されている革製品がおすすめです。

この方法で鞣された革は、その丈夫さにおいて他を圧倒します。

皮に浸透したクロムが、内側の繊維と強固な結びつき(配位結合)を形成するからです。

化学的な結合力を一般的に比べると、タンニンと革の繊維の結びつき(水素結合)の10倍以上の強さになることもあります。

この違いを理解するために、再び服を例にとってみましょう。

同じ条件で作られた植物繊維(綿や麻)の生地と、合成繊維(ナイロンやポリエステル)の生地を比べたとき、多くの場合、後者の方がはるかに丈夫になります。

そのため、アウトドアウェアは合成繊維でできた生地でつくられることが多いのです。

そんな合成繊維の生地のように、クロムで鞣された革も非常に耐久性に優れています。

一方で、タンニン鞣しの革は、より自然な風合いと経年変化を楽しむことができる反面、クロム鞣しの革に比べると耐久性は劣る傾向にあります。

ただし、これは「タンニン鞣しの革が弱い」という意味ではありません。

クロム鞣しの革には劣りますが十分な耐久性は持っており、適切なお手入れと使い方をすれば長期間愛用することが可能です。

結論としては、革製品の耐久性を最優先にするなら、クロムを使って鞣す「クロム鞣し」または「コンビ鞣し」の革製品がおすすめです。

経年変化の違い

革らしい色や質感の変化を重視するなら、タンニンで鞣されている革製品がおすすめです。

タンニンで鞣された革は、使うほどに独特の深みを増していきます。

想像してみてください、大木の肌は年月を経て深い色合いに変わっていきます。

その木肌のように、タンニン鞣しの革も空気や紫外線の影響でタンニンが酸化し、時間とともに色が深まっていきます。

しかし、タンニン鞣しの革の特徴は、色の変化だけではありません。

この革に顕著な「可塑性(かそせい)」―形を覚える特性―が、革に艶やかな質感をもたらします。

この性質を簡単に理解するために、「粘土」をイメージしてください。

粘土は可塑性が極めて強く、棒で表面に文字を書いても何度か擦れば滑らかな表面になります。

タンニン鞣しの革もまた、手で触れるたびに摩擦によって表面の凹凸が平らにならされ、徐々に滑らかな質感に変わっていくのです。

一方でクロム鞣しの革は、強度や弾力性が強く、酸化しにくい特性を持ちます。

そのため、タンニン鞣しの革のような色や質感の変化は少なめです。

この違いも、合成繊維と植物繊維の違いに似ています。

合成繊維の生地は強度がありシワになりにくいですが、植物繊維の生地のような自然な風合いや経年変化は少なくなります。

結局のところ、革製品に求めるものが「経年変化」であれば、タンニンで鞣された革、つまり「タンニン鞣し」あるいは「コンビ鞣し」の革がおすすめです。

ただし、いわゆるガラスレザーのように革が顔料で染められていたり、エナメルレザーのように革に樹脂が塗布されている場合は、タンニン鞣し特有の経年変化が味わえなくなります。

革の表面が覆われているため、手や空気に直接触れることがなくなり、経年変化が起きにくくなるからです。

そのため、色や質感の変化が楽しみたい場合は、「鞣しにタンニンが使われているか」に加えて、「表面がコーティングされていないか」も確認してみてください。

色合いの違い

色は革製品の魅力の1つです。

1つ1つ異なる色合いは、まさにその製品の個性とも言えるでしょう。

革の自然な素肌を生かすように染める染料染めの革は、その前に行われる鞣しによって色合いが変わります。

タンニンを使用する「タンニン鞣し」や「コンビ鞣し」の革は、植物性タンニン自体が薄いベージュ系の色合いのため、その上から色を重ねる「混色」になります。

そのため、自然に馴染む、くすんだ色合いになることが多いです。

新品時の発色が鮮やかな場合も、タンニンが空気や紫外線の影響を受けて、より深く、ナチュラルな色調に変化していきます。

森の中の樹木が年月を経て深い茶色に変わるように、タンニン鞣しの革もまた、自然な深い色へと変化していくのが特徴になります。

一方で、クロム鞣しの革は、鮮やかで均一な色合いになることが多いです。

タンニン鞣しの革とは異なり酸化されにくいため、新品の時の鮮やかな色合いを長く保ち、常に新鮮な印象を与えてくれるでしょう。

ただし、このような違いが生まれるのは、革を染める際に「染料」を使った場合です。

革の染色には「染料」または「顔料」が使われますが、「顔料」を多く使用している場合は、色合いの違いはほとんど生まれません。

顔料で革を染めるとペンキのようなイメージで表面に塗膜をつくるため、革の自然な素肌は味わえなくなります。

一方で、水や汚れには強くなるのはメリットで、色合いが変化しにくいのも特徴です。

この顔料による染色は、ベースとなる革の質に左右されないためコストが低く、最も広く行われている方法ですが、使い込むと顔料が剥がれることもあるのでご注意ください。

結論として、革の自然な素肌よりも、水や汚れへの強さを重視し、色合いも変化して欲しくない場合は「顔料染め」の革製品を選んでみてください。

一方で、革の自然な素肌を楽しみたい場合は、「染料染め」の革製品を選びましょう。

その上でも、ナチュラルな色と変化を楽しみたい場合は「タンニン鞣し」かどうかを、均一で鮮やかな色を長く楽しみたい場合は「クロム鞣し」かどうかを確認してみてください。

3種類の鞣し方による革の違いの比較とまとめ

世界中の9割以上の革は、鞣しにクロムやタンニンが使われており、それぞれの成分が革に全く異なる性質を与えます。

そのため、それぞれの鞣しの特徴を知ることは、革製品を選ぶ上で極めて重要なのです。

クロム鞣しの革は、特に耐久性や機能性が高く評価されています。

鮮やかな色合いも特徴で、新品の時の色を長く保つことができます。

この革は、とにかく耐久性を重視する方や、新品時の色合いを長く楽しみたい方におすすめです。

次に、タンニン鞣しの革は、クロム鞣しに比べると耐久性は少し劣るものの、自然な質感や、色艶の変化が魅力です。

使い込むほどに艶やかで深みのある色合いに変化し、ナチュラルな色合いを楽しむことができます。

自然な風合いと経年変化を重視する方には、このタンニン鞣しの革がおすすめです。

そして最後に、クロムとタンニンの両方を用いるコンビ鞣しの革は、それぞれの特性を併せ持つハイブリッド型の革です。

クロム由来の耐久性と、タンニン由来の経年変化を楽しむことができる、バランスの取れた選択肢と言えます。

以下は、これら3種類の鞣し方による革の特徴を比較した表です。

項目

クロム鞣し コンビ鞣し タンニン鞣し
耐久性 最も高い 高い 中程度
経年変化 なし 豊か 最も豊か
色合い 均一で鮮やか アースカラー アースカラー

※革の表面をコーティングしない場合の一般的な傾向の比較

革製品を選ぶ際は、自分が求める特徴をもとに、その製品がどのような鞣し方で作られているかを確認してみてください。

革はその鞣し方によって、まるで異なる表情を見せる素材です。

あなたのライフスタイルや好みに合った革製品を見つけ、長く愛用することで、その魅力をより深く感じることができるはずです。